【前回までのカウンセリング内容】
就活がうまくいかなかったことをきっかけにひきこもりになってしまった息子のことで、その両親がカウンセリングに通っている。
仕事のことしか頭にないようだった父親が息子の回復への協力を徐々に始めたこともあり、息子は自室から家の中には出てこられるようになり、多少は親とも会話をするようになってきた。
カウンセラーは、両親にひきこもりの家族の自助グループに継続的に通うことを薦めた。また、家の預貯金などがどのぐらいあるかを息子に伝えて、息子が無理に高収入の仕事に就く必要はなく、現実的に就労しやすい方向を考えられるようにすることも提案した。
さらにカウンセラーは、就職に失敗したり、ひきこもりになってしまったといって、息子が罪悪感とストレスでいっぱいになっていること、その悩みが脳から身体にまで伝わって身体を動かそうにも動かせず、それがますますがんばろうとしても身体を動かせないという悪循環を生んでいることを説明した。そして、ミラーニューロンという脳の共感反応を利用して息子の脳にはたらきかけ、ストレスを減らし身体が動かせるようになることを狙って、FAPという心理療法を行った。
今回のカウンセリング
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![]() そのうち、息子は夫のいないお昼ごはんの時から一緒の食卓につくようになってきました。そして、夫と一緒に食事をしても説教などをされないことも徐々にわかってきたようで、この頃は家族3人で食卓を囲むことも増えてきたんです。 |
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![]() それから、おそらく私がFAP療法で狙った効果も出てきて、罪悪感やストレスが脳から減り、その結果徐々に身体を動かすのが苦にならなくなってきたのだとも思います。 息子さんは今まで、ご自分のことを「就職もできずにひきこもってしまった役立たず」と責め続けていたのだと思います。いい歳をして親のすねをかじっているのも親に申し訳ないと感じていたのでしょう。でも、少しずつでも身体が動くようになってきたので、家事をすることで親への謝罪や恩返しをしているのだとも考えられます。 |
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![]() それに、自分や家族の衣食住、身の回りのことをきちんとできることは、人間が生きていく基本です。 日本では働いてお金を稼いでさえいれば一人前の社会人みたいに思われていますが、世界的に見ればそういう考え方はおかしいのです。世界のスタンダードでは、一人前の社会人というのは、まず「家庭人」であること、次に「地域人」であること、最後が「経済活動に参加していること」というふうに考えます。「家庭人」というのは、まず自分の身の回りのことが 自分できちんとでき、家族がいるならその家族とのコミュニケーションを大切にする人です。「地域人」というのは、「家庭」「家族」からもう少し枠を広げて、自分たちの住む地域をよくする活動に参加したり、もう少し大きく自治体や国や国際社会のために何かできることをしていくことです。ボランティア活動、NPO、NGOや市民活動への参加、選挙やデモ、集会などを通じての政治参加などです。会社で働くことは、最後の「経済活動への参加」の一部に過ぎません。もちろん家庭や地域での生活のためにお金は必要です。必要なお金は働いて稼ぐか、働けない人は社会保障などの制度を利用することになります。でも、給料は出ない仕事でも育児や家事労働は重要な仕事ですし、働いていようと働いていまいとお金を使うことも経済活動への参加のひとつです。 日本で使われている「社会人」ということばは、実は「会社人」なのです。社会人である条件のごく一部でしかありません。 |
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![]() ボランティアは、お住まいの地域から少しだけ離れたところで始めるのもいいかもしれませんね。ご近所の仕事だと、平日の日中に知り合いの方と顔を合わせなければならなくなるかもしれませんし。 |
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![]() 別にうちでやっているグループではなくてもいいのですが、息子さんと同じようなひきこもり当事者の自助グループもあちこちで開かれていますから、そういう情報もインターネットなどで探して参加してみるのもいいでしょう。 |
それから、数か月ほど経った頃、グループ・カウンセリングの場にこの家の息子が初めてやって来た。ほとんど自分の話はせず他の参加者の話を聞いて帰っていったが、その後も2、3週間に1度ぐらいのペースでグループに参加するようになり、次第に自分の悩みも語るようになっていった。
そして、さらに数か月後、この息子は高円寺の街のケーキ屋さんでアルバイトを始めたことをグループの中で話した。そのケーキ屋さんは、以前母親がおみやげを買ってきてくれたお店だった。息子はこのアルバイトのことを、こんなふうに話した。
「以前母がおみやげのケーキを買ってきてくれたお店で、アルバイトを始めました。ひきこもっている間に家でだいぶ料理などをしていたので、飲食店の仕事に興味が湧いてきたのです。それに、母が買ってきてくれたおみやげの中で一番おいしかったお店で働いてみたいとも思っていましたから、このお店でバイトができることになってうれしく感じています。
それから、両親が家の財産や預貯金のことをくわしく教えてくれたことも、いい後押しになったと感じています。以前は『大企業の正社員になれなければ、今のような厳しい世の中ではやっていけない』というのが口癖だった父も、『うちの資産を考えたら、さほど高収入の仕事を探さなくてもお前ひとりだけなら生活していけるから、就職をあせることはない』と言うことが変わってきましたから、プレッシャーも減りましたね。」
その後、両親のカウンセリングは2か月に1度ぐらいに回数が減り、息子自身の申し出で、息子がグループ・カウンセリングだけでなく個人面接も受けるようになった。また、息子はひきこもりの自助グループにも定期的に参加するようになり、安定した就職を目指しながら、自分と同じようなひきこもりに悩む人の支援活動もしたいという希望を語るようになってきている。
「どうする!?うちの子のひきこもり」〈おわり〉
※来月からは「DV・ストーカー被害の相談編」が始まります。
心理相談室サウダージについて
☆心理相談室サウダージは、高円寺庚申通りで「家族問題(虐待、AC、DVなど)、お子様の問題(不登校、ひきこもり、発達障害、成績不振など)、アルコー ル・ギャンブルほかの依存症、摂食障害、職場・友人・恋愛などの人間関係の悩み、トラウマ、自傷行為、生きづらさなどの悩み」といった幅広いご相談を受けています。
- 心理相談室サウダージのホームページ(http://www.saudade.biz/)
- 室長前田のプロフィール(http://www.saudade.biz/profile/)
☆心理相談室サウダージでは、毎週火曜日の夜、ひきこもり・不登校・対人緊張を感じるなどの当事者のグループ・カウンセリングを行っています。
詳しくは、相談室のウェブサイトをご覧ください。
※本記事は「HAPPY!高円寺」連載記事『心理相談室サウダージの人生らくらくカウンセリング』をバックナンバーを含め公開(毎月10日頃更新)したものです。