『人生らくらくカウンセリング』連載〈17〉


本記事は「HAPPY!高円寺」連載中(2012年7月号、vol.33より)の人気記事『心理相談室サウダージの人生らくらくカウンセリング』をバックナンバーを含め公開(毎月10日頃更新)したものです。

心理相談室サウダージは、高円寺庚申通りで「家族問題(虐待、AC、DVなど)、お子様の問題(不登校、ひきこもり、発達障害、成績不振など)、アルコー ル・ギャンブルほかの依存症、摂食障害、職場・友人・恋愛などの人間関係の悩み、トラウマ、自傷行為、生きづらさなどの悩み」といった幅広いご相談を受けています。

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人生らくらくカウンセリング

連載〈17〉「どうする!? うちの子のひきこもり」③

 

前回までのカウンセリング内容】就活がうまくいかなかったことをきっかけにひきこもり状態になってしまった大学生の息子のことで、母親が相談にやって来た。
カウンセラーは、いきなり息子を無理に外に引っ張り出そうとしないようアドバイスをした。そして、まず母親が変わってもらうことや、家族が今までと違った行動を取って息子との会話の糸口を見つけられるようにすることなどを狙って、カウンセリングの帰り道にあちこち寄り道をしたり、家へおみやげを買っていくことを薦めてみた。そして、この母親と息子は、おみやげのお菓子の話題から多少は会話もできるようになってきた。
カウンセラーは、次に相談室に来てもらうのは、ひきこもりという問題を起こしている当人の息子ではなく父親だというのだが…。

 

相談者のアイコン「夫には息子のことでカウンセリングに通っていることを話してありますし、なるべく早くこの相談室に私と一緒に来てほしいと頼んでもいます。ただ、夫は仕事が忙しいとか、家や子育てのことはお前にまかせてあるとか言って、なかなか動いてくれそうにありません。」

室長のアイコン「お連れ合いを無理やり連れて来ようとするのは、かえって反発されて逆効果になるかもしれませんね。

お連れ合いは、息子さんのひきこもりの責任を問われるのを避けようとしていたり、思い通りにいかない現実に向き合うのをつらく感じているのだと思います。ですから、治療や相談の場に来ることに抵抗があるのでしょう。

そこで、まず私がFAPという心理療法を使って、お連れ合いの治療への抵抗の原因を探りその抵抗感を減らしてみようと思います。」

相談者のアイコン「夫が来ていないのに、夫の気持ちを変えることができるんですか?」

室長のアイコン「FAP療法は、ミラーニューロンという脳と脳が共感でつながるはたらきを利用する治療診断法です。あなたとお連れ合いの脳はミラーニューロンを通してつながっていますし、あなたと私の脳も同じようにミラーニューロンを通じたつながりがカウンセリングの中でできています。あなたを中継点にすれば、私がお連れ合いの脳にはたらきかけをすることも可能なのです。」

相談者のアイコン「そうなんですか? なんだか超能力みたいな話で信じられませんが…。」

室長のアイコン「脳と脳がケーブルでつながっているわけでもないのに、なぜお互いの脳が共感反応を起こすのかは科学的に解明はされていませんが、共感を感じ合った人たちの脳の中では、ある部位の活動が活発になることはわかっています。そして、その共感反応を利用したFAP療法が大きな効果を上げている実績もあります。超能力やオカルトなどではありませんよ。特に副作用もないですから、安心して受けてみてください。

(カウンセラーがFAP療法を行う。)

これで終わりです。何か変化を感じますか?」

相談者のアイコン「始める前に体の痛みや違和感を感じる部分を訊かれましたけど、その痛みをほとんど感じなくなりました。なんだか体も気持ちもちょっとほぐれた感じはします。」

室長のアイコン「では、次回のカウンセリングまでに、あなただけでなくお連れ合いにも何か変化が出てきたら、それを次回は教えてください。

それから、お連れ合いのお仕事が忙しいのであれば、うちは休日の相談も引き受けていますから次の予約は土日にしておいてください。そして、カウンセリングにいらっしゃるのはあなただけでいいので、その前後にお連れ合いと高円寺でデートしようというお誘いをしてみてはどうですか? あなたはだいぶ高円寺の街にも詳しくなってきたでしょうから、一緒に食事をしたり買い物に行きたいお店も思いつくでしょう。」

相談者のアイコン「デートですか!? 結婚する前はともかく、結婚後、特に息子が生まれてからは夫婦だけで遊びに出かけたことなんて、ほとんど記憶にないですよ。今さらふたりだけでどこに遊びに行けばいいんでしょう?」

室長のアイコン「お連れ合いだって、何か好きな食べ物や多少は趣味もあるでしょう。お連れ合いの気に入りそうな場所を考えてみてください。」

 

(2週間後の日曜日、この母親が相談室にやって来た。)

室長のアイコン「おひとりですか?」

相談者のアイコン「いえ。夫も一緒に高円寺に来てくれています。相談室にはとりあえずお前がひとりで行ってくれと言われてしまいましたが。」

室長のアイコン「お連れ合いは先に帰ってしまったんですか?」

相談者のアイコン「いえ。ここの建物の前まで来て、最初は近くの喫茶店で待っていると言っていたんですけど、この建物に入っている「スターウォーズ」のグッズのお店が気になったらしく、そこで待っているということになりました。」

室長のアイコン「なんだ!相談室の目の前までいらっしゃってるんじゃないですか!それはよかった。おそらく前回のFAP療法の効果で、相談室の前までは来られる程度には治療への抵抗感が小さくなってきているんだと思います。

ところで、今日はもうデートはしてこられたんですか?」

相談者のアイコン「はい。イタリアンの雰囲気のいいお店があったので、まずそこで食事をしました。まだお昼でしたしカウンセリングの前でしたけど、ワインも1杯ずつ飲んじゃいました。食事もとってもおいしかったですし、何より久しぶりに夫婦でゆっくり話もできました。」

室長のアイコン「どんなお話をされましたか?」

相談者のアイコン「本当はせっかくのチャンスですから、息子のことをじっくり話し合った方がよかったのかもしれませんけど、お酒もちょっぴり飲んだせいか、結婚前にデートした時のことなんかを思い出して話し込んでしまいました。」

室長のアイコン「それでいいんですよ。いくら息子さんがひきこもりだからといって、四六時中親に心配ばかりされているのは、息子さんにとっては親に悪いことをしているという気持ちをかえって強くさせることになります。あなたはカウンセリングに通っていらっしゃるんですし、息子さんの心配も十分にしています。ですから、あなた自身が楽しむ時間も持っていいんです。前にもお話した通り、親が日々楽しく過ごしている方が家の中の緊張感が減って、息子さんの気持ちも楽になり問題の解決が早くなると思いますよ。

ところで、お連れ合いは「スターウォーズ」が好きなんですか?」

相談者のアイコン「スターウォーズ」もそうですけど、夫はちょっとオタクっぽいので、フィギュアというんですか、ああいうのをけっこう集めたりしているんです。」

室長のアイコン「え? お連れ合いは仕事依存症で趣味なんかないように思っていましたよ。 オタクなんておっしゃいましたが、プライベートに楽しみがまったくない仕事依存=ワーカホリックよりはるかにいいですよ。」

相談者のアイコン「高円寺に来ることを案外いやがらなかったのも、そういうオタクっぽいグッズを売っているお店が何軒かあるからみたいです。中野のそういうグッズを扱っているお店には、時々ひとりで行ってるみたいなんですよ。ですから、食事の後で古いおもしろい品物を売っているリサイクルショップにも2,3軒寄ってきたんです。私と夫は興味を持つ物がだいぶ違いましたけど、けっこうふたりで楽しんできました。」

室長のアイコン「そうなんですか!!今日のようなデートは息子さんのひきこもり問題の解決には何の役にも立たないように思われているかもしれませんが、今日ご夫婦でされたことはご家族全体に大きな良い変化をもたらしてくれると、私は考えています。 さて、お連れ合いは近くで待っていてくださるようですから、こちらはこちらでカウンセリングを進めていきましょう。

(カウンセリングの終了時刻が近づく。)

そろそろ終了の時間ですね。さて、ちょっと変なことをうかがいますが、お連れ合いはせっかちな方ですか?」

相談者のアイコン「すごくせっかちですし、時間にはうるさい人です。いくら好きなフィギュアを売っているお店にいるといっても、だいぶ待ちくたびれていると思います。」

室長のアイコン「では、お連れ合いをもう少し待たせてみましょうか。」

相談者のアイコン「え?」

室長のアイコン「原則としてカウンセリングは時間を超過しては行わないのですが、今日は休日で次の予約もありませんから、ちょっと世間話でもして時間通りに終わらないでみましょう。お連れ合いから携帯に連絡が入るかもしれませんが、無視していてください。」

(終了時刻を10分以上過ぎた。妻の携帯にはメールや電話の着信もあったが、妻はカウンセラーに言われた通り返事はしないでいた。そのままにしていると、まもなく相談室のドアをノックする音が聞こえた。)

相談者の夫のアイコン「ずいぶん長引いているようだけど…?」

室長のアイコン「ちょうどよかった。旦那様ですよね?お入りになって奥様のカウンセリングのお手伝いをしていただけませんか?」

(夫が部屋に入ってくる。)

相談者の夫のアイコン「ずいぶん長くかかっていますが、妻に何かあったんでしょうか?」

室長のアイコン「旦那様が来てくださって助かりました。息子さんのことで、どうしても奥様が気持ちが落ち着かないようなんです。お恥ずかしい話ですが、私ひとりでは力不足で、奥様の不安感がなかなか収まらなくて困っていたのです。

ぜひ奥様の隣に座っていただいて、手を握っていてくださいますか? そして、これから奥様にFAPという心理療法を行いますので、その間ついていていただいて、奥様の気持ちを落ち着かせてあげてください。」

相談者の夫のアイコン「私は妻の隣に座って手を握っていればいいんですか?」

室長のアイコン「そうです。お願いします。」

(カウンセラーはFAP療法を行った。10分ほどで治療は終わった。)

室長のアイコン「奥さん、いかがですか?」

相談者のアイコン「ああ。なんだか気持ちや身体の痛みがずいぶん楽になった感じです。」

室長のアイコン「旦那様がついていてくださったので、効果ある治療ができたようです。ありがとうございます。やっぱり頼りになるお連れ合いがいてくださると違いますね。」

相談者の夫のアイコン「そうですか。」

室長のアイコン「奥様のご相談されているのは息子さんのことではあるのですが、息子さんの問題を考えるとどうしても不安が強くなってしまうようなのです。旦那様についていていただけると、奥様の不安感が薄れ治療がうまく運びます。ぜひこれからもできるだけ奥様に付き添っていただけますか。」

相談者の夫のアイコン「私の家族の問題ですし、私でお役に立つことがあるのなら、土日のカウンセリングであればできる限り妻に付き添ってくるようにいたします。」

室長のアイコン「ありがとうございます。 では、土曜か日曜での次回の予約の調整と本日のお支払いを奥様にしていただきますので、もう少しだけ待合室でお待ちになっていてください。 」

(父親は部屋を出る。)

相談者のアイコン「先生、ありがとうございます。とにかく夫に先生と顔を合わせてもらうことができました。でも、私は特に不安とか感じていなかったんですが…。」

室長のアイコン「せっかくお連れ合いのカウンセリングへの抵抗がなくなってきたのに、ここであせってお連れ合いご本人に何か心理治療のようなことを行おうとしたら、自分にも何か問題があって治療されていると感じるでしょう。自分に精神的な問題があって治療が必要だというのは、誰でもなかなか認めたくないことです。自分が精神的に弱い人間だと思われるのはいやなんですよね。特に社会的な地位もあってプライドの高い男性は、そういう傾向が強いのです。

そういう人には、あなたは心理治療が必要ですと言うよりも、誰かの問題を解決するためにあなたの協力が必要ですと言った方がいいのです。特に男性にとっては、自分の力が誰かの役に立っていると感じることは、大げさに言うと自分の存在の証しのように思う傾向が強いのです。ですから、あなたを助けるという役割を務めてもらって、カウンセリング・ルームの中に留まっていただけるような話にしておいたんです。」

相談者のアイコン「なるほどそうだったんですか。」

室長のアイコン「実際には、あなたよりお連れ合いに焦点を当てたFAP療法を行いました。

これで次回は、また何か良い変化がご家族の中に起きてくるのではないでしょうか。」

(つづく)

 

☆心理相談室サウダージでは、毎週火曜日の夜、ひきこもり・不登校・対人緊張を感じるなどの当事者のグループ・カウンセリングを行っています。

☆10/26・27(土日)に開催される〈高円寺フェス〉に、サウダージも参加します。「100円カウンセリング」の連日開催ほかいろいろな企画を予定しています。

詳しくは、相談室のウェブサイトをご覧ください。


著者について

HAPPY!高円寺の編集スタッフです。このホームページのメンテナンスなども行っています。なお、掲載されているお店情報に誤りや変更点があれば、問い合わせフォームでお知らせください。新しいお店情報などをいただくと、なお嬉しいです。よろしくお願いいたします。