『人生らくらくカウンセリング』連載〈16〉


本記事は「HAPPY!高円寺」連載中(2012年7月号、vol.33より)の人気記事『心理相談室サウダージの人生らくらくカウンセリング』をバックナンバーを含め公開(毎月10日頃更新)したものです。

心理相談室サウダージは、高円寺庚申通りで「家族問題(虐待、AC、DVなど)、お子様の問題(不登校、ひきこもり、発達障害、成績不振など)、アルコー ル・ギャンブルほかの依存症、摂食障害、職場・友人・恋愛などの人間関係の悩み、トラウマ、自傷行為、生きづらさなどの悩み」といった幅広いご相談を受けています。

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人生らくらくカウンセリング

連載〈16〉「どうする!? うちの子のひきこもり」②

 

前回までのあらすじ)就活がうまくいかずひきこもりを始めてしまった大学生の息子さんのことで、母親が相談にやって来た。カウンセラーはその母親に、してほしいことを3つ伝えた。

①カウンセリングの帰りにまっすぐ駅に向かわず、高円寺の街をあちこち寄り道して帰ってみること。どこかで家族へのおみやげも買っていくこと。

②この家族は、自分たちの通ってきた学校を「いい学校」、また父親が勤めている会社や息子さんが入社を志望した会社を「いい会社」と呼んでいた。それをカウンセラーは、「偏差値の高い学校」「給料の高い有名企業」と言い換えた。そういう言い換えをしたのはなぜか、考えてきてほしい。

③また、この母親は自分の夫のことを「主人」と呼んでいたが、それもカウンセラーは「お連れ合い」と言い換えた。その理由も考えてきてほしい。

そして、2回目のカウンセリングに母親がやって来た。

 

室長のアイコン「前回のカウンセリングの後で、高円寺の街を寄り道しながら帰ってくださいとお願いしました。いかがでしたか?」

相談者のアイコン「なんだかとても楽しかったです。
まず、この相談室から1階に降りたら、おいしそうな匂いがしているのに気がついたんです。1階はピザ屋さんだったんですね。相談室に来た時には気がつきませんでした。お昼もまだ食べていなかったので、最初の寄り道でピザを食べたんです。そうしたら、とってもおいしくて! それにデリバリーのピザよりずっと安いんですね。ピザを食べていたら、お隣はおとうふ屋さんだということにも気がついて、おとうふや油あげも買って帰りました。こちらもうちの近所のスーパーの物よりずっと安くておいしかったんです。
それにしても、なぜ私は、相談室に来た時には同じ建物の1階にピザ屋さんやおとうふ屋さんが入っているのに気がつかなかったんでしょう…?」

室長のアイコン「息子さんのことで頭がいっぱいで、周りの物は目に入らなかったんでしょうね。それだけ息子さんのことを真剣に考えていたということですから、そのお気持ちはすばらしいと思います。しかし、ひきこもりに限らずメンタルな問題を解決しようとする時には、その問題だけを何とかしよう、何とかしようとがんばっても、かえって空回りしてしまいがちです。気持ちに余裕を持って、問題の正面からだけではなく回り道に思えるようなところから変化を起こしていく方が、結果的に解決は早くなります。
とにかく、帰る時には周囲に目がいくような心の余裕ができたわけですよね。つまり、あなたには既にひとつよい変化が起きたということになります。
さて、それからどうされましたか?」

相談者のアイコン 「商店街を駅と逆方向に歩いてみました。いろいろなお店があって、足が何度も止まりました。祠のようなものもあって、ちょっと拝んだりもしてきました。家へのおみやげも探していたんですが、おいしそうな物を売っているお店が多くて目移りしてしまいました。でもけっきょく、ユーミンが好きだというかりんとうを買いました。私、学生時代からユーミンの大ファンなんです。」

室長のアイコン「あのかりんとうもおいしいですよね。それからどうされました?」

相談者のアイコン「もうちょっと遠回りをしてみようと思って、横の道に入っていきました。” ミルク風呂” という看板を出しているおふろ屋さんもあって、お肌がきれいになりそうなので次に来た時には入ってみようかと思いました。そのまままっすぐ歩いていたら、ほんの200メートルぐらい先にももう1軒おふろ屋さんがあってびっくりしました。肩こりが取れそうな感じで、こちらにも入ってみたくなりましたね。」

室長のアイコン「はじめて高円寺にいらっしゃったのに、ずいぶんマニアックな所まで散歩されましたね。それから―?」

相談者のアイコン「それから線路の方に歩き始めました。ちょっと疲れてきたので、一休みできる場所を探し始めたんです。そうしたら、ふくろうを飼っている喫茶店を見つけてびっくりしました。最初は剥製かと思ったんですけど、本物のふくろうだったんですよ! そこで紅茶とケーキをいただいて、ふくろうと記念写真も撮らせてもらえました。」

室長のアイコン「喫茶店のマスターまで、ふくろうそっくりでしょう?」

相談者のアイコン「そうなんですよ! 笑っちゃいけないとは思ったんですけれど。
それから、駅の方へ向かって歩き始めたら、なんだか懐かしいような物をたくさん売っているリサイクルショップがあって、そこでもちょっと買い物をしちゃいました。家に帰ってから、主人…ではなくて夫からは、” おかしな物を買ってくるんじゃない” と叱られましたけど。」

室長のアイコン「はははは。ずいぶん楽しまれたようですね。」

相談者のアイコン「ええ。とっても楽しかったです!
考えてみたら、この頃息子のことで悩んでばかりで、私も夫も楽しんだり笑ったりすることがほとんどなかったように感じます。でも、すぐに息子が大変な思いをしているのに、私だけ楽しんでいていいのかなというふうにも感じてしまって…。」

室長のアイコン「楽しんでいていいんですよ。まずあなたご自身が毎日楽しく生きていることが、息子さんの問題解決にもいい影響を与えます。ご両親が楽しい日々を過ごしているのを実際に目にすることが、何より息子さんの楽しい人生を送りたいという気持ちを大きくさせるんです。そして、家の中が楽しい雰囲気になってきて緊張感が減ってくれば、息子さんも外に出てきやすくなります。
ところで、おみやげのかりんとうはどうされました?」

相談者のアイコン「息子の部屋のドアの前に、食事といっしょに出しておいたんです。そうしたら、全部食べてしまっただけでなく、息子がトイレのついでに、” またあのかりんとう、買ってきて。” と私に声をかけたんです。」

室長のアイコン「それはすごく大きなよい変化ですよ! 息子さんと会話したこと自体が、何か月ぶりだったんでしょう?」

相談者のアイコン「そうなんです! これが何かいいきっかけになれば…。」

室長のアイコン「会話は続けられますよ。また、かりんとうを買って帰った時には、あなたから声をかけるチャンスができます。その後は、いくらおいしいかりんとうでも飽きるでしょうから、他の物も買って帰ってみるのもいいでしょう。おみやげのお菓子のことから、あなたと息子さんに共通の話題ができるわけです。そのうち、息子さんはあなたがしょっちゅう出かけてはおみやげを買って帰るようになったのはなぜか、不思議に思い始めます。そこからもいろいろ会話が生まれそうですよね。少なくとも、ひきこもりの息子さんがいらっしゃってその問題をご自分の家族の中にだけに留めていた状態に、外の空気が入り始めます。息子さんにも、家の外の世界の様子があなたを通してですが伝わっていきます。インターネット上以外での他人とのコミュニケーションが始まるのです。

ただし、息子さんのことであなたがカウンセリングに通っているということを伝えるのは、しばらく会話が続いてからタイミングを見てということにしましょう。息子さんはただでさえ、就職に失敗してご両親に申し訳ないという気持ちでいっぱいです。息子さんが心の準備ができていないうちに、母親が自分のことでカウンセリングにまで通っているのを知ったら、自分が両親に心配をかけているとますます強く感じるようになります。息子さんはいっそうご自分を責めて追い詰められた気持ちになってしまいますよ。

もちろん、息子さんと会話ができるようになったからといって、すぐに” お前は将来どうするつもりだ!?” などと問い詰めたり、お説教をしたりすれば、息子さんは今以上に追い込まれた気持ちになって、事態はずっと悪くなります。その点はくれぐれも注意してください。ひきこもりに限らず、メンタルな問題が説教でよくなることはまずありません。悪化することはあっても。」

相談者のアイコン「わかりました。それは、主人…じゃなくて夫にも気をつけてもらわないといけないですね。」

 

室長のアイコン「先ほどと今、2回、あなたはお連れ合いのことを” 主人” と呼びそうになって、” 夫” と言い直しましたね。その” 主人”という言葉遣いについては、考えてみましたか?」

相談者のアイコン「” 主人” ということばって、” ご主人様と召し使い” みたいに使われますよね。先生に言われるまで考えたこともなかったけれど、” 私って夫の召し使い?” って考えちゃうと、たしかにちょっと夫を” 主人” と呼んでいていいのかなという気持ちになりましたね。お金を稼いでくれているのは夫だけど、家事や息子のことはほとんど全部私がやってきたんだし、夫が” 上” で私が” 下” っていうのもおかしいですよね。それとも、私が” 下” なのは私が” 女” だから―?それはますますおかしいですし。」

室長のアイコン「正解があるわけではありませんが、よい気づきをされたと思います。家族の中に根拠のない上下関係ができていることがおかしいと気がつけたわけですから。そもそもあなたとお連れ合いはそれぞれ独立した人格を持っていて、関係は対等のはずです。そして、息子さんももう未成年ではないのですから、上下関係ではなく家族の中でも対等な人間関係を持つべきでしょう。子ども扱いされて親の意向に従わされていた息子さんが、大人扱いされるようになれば、自分で物事を考えるようになってきます。そうすれば、親の言うことにばかり従っていなくても、いろいろ生きていく方法はありそうだと思えるようにもなってくるかもしれません。

さて、” いい学校” ” いい会社” という呼び方については、どうお考えですか?」

相談者のアイコン「たしかに、私や夫は偏差値の高い学校を卒業して給料の高い大きな銀行に勤めました。でも、私の通った学校にはいい面もあったけれど、悪い面もありました。そして、私と夫の勤めた銀行も、給料はよかったけれど、夫は家族と過ごす時間もないぐらい仕事に追われ続けてきました。単純に” いい会社” とも言い切れないと気づきました。

それから、前回のカウンセリングの後の寄り道のことも考えました。私が買い物をしたり興味を持ったりしたお店は、息子が面接を受けたような有名企業ではないけれど、なんだか仕事がおもしろそうだし働いているみなさんも楽しそうに見えました。” 偏差値の高い学校” を出て” 給料の高い有名な会社” に入るだけが人生でもないなという気がしてきたんです。」

室長のアイコン「もちろんどこのお店にもそれぞれご苦労はあるでしょうし、お金が儲かる仕事ばかりでもないでしょう。でも、とにかく皆さんその仕事で生活はなさっているわけです。息子さんだって、あなたやお連れ合いだって、” 偏差値の高い学校” から” 給料の高い有名企業の正社員” になれなければ人生はおしまいだなんて、絶望までする必要はないでしょう。少なくとも将来の選択肢は広く考えていた方が得ですよね。」

相談者のアイコン「そうですね! なんだか気持ちが明るくなってきました。」

室長のアイコン「それはよかった。
ただし、あなたのものの見方が変わり始め、気持ちも明るくなったからといって、すぐに息子さんがひきこもりをやめて大企業ではなくてもどこかに就職するというふうに、一足飛びに問題が解決するというわけではありません。

次はあなたのお連れ合いにも多少は変わってほしいですね。できれば近いうちに、ご夫婦で相談にいらっしゃってみてください。でも、お連れ合いにお説教をして無理やり相談室に連れてくることはないですよ。次回のカウンセリングでは、みなさんの変化をうかがいながら、お連れ合いも問題解決に関わっていただけるように考えていきましょう。」

(つづく)

 

☆現在、心理相談室サウダージでは、毎週火曜の夜に、「不登校・ひきこもり・ニート・対人緊張に悩む方のグループ・カウンセリング」を行っています。詳しくは相談室のウェブサイトをご覧ください。


著者について

HAPPY!高円寺の編集スタッフです。このホームページのメンテナンスなども行っています。なお、掲載されているお店情報に誤りや変更点があれば、問い合わせフォームでお知らせください。新しいお店情報などをいただくと、なお嬉しいです。よろしくお願いいたします。