『人生らくらくカウンセリング』連載〈19〉「どうする!? うちの子のひきこもり」⑤


人生らくらくカウンセリング

前回までのカウンセリング内容】

 就活がうまくいかなかったことをきっかけにひきこもりになってしまった息子のことで、母親がカウンセリングに通っている。カウンセリングを受け続けているうちに、自室に閉じこもっていた息子は家の中だけなら出てこられるようになり、家族との会話もするようになってきた。また、仕事に追われ家族の問題に目を向けていなかった父親も、母親のカウンセリングに付き添う形で徐々に問題に向き合うようになってきた。

 

そのタイミングを見て、カウンセラーは2つの提案をした。ひとつは、この両親に「ひきこもり親の会」に参加してもらうこと。もうひとつは、自分たちがもしいなくなってしまった時に息子にどのぐらいの財産を残せるかをはっきりさせておくために、遺言状を書いてもらうことだった。両親がいなくなっても、自分の住居や使えるお金がどのぐらい残されているかがわかっていれば、その時までにどのぐらいのお金を稼ぐ当てをつけておけばよいか、どの程度の生活能力をつけておけばよいか、この息子が判断できる。ただやみくもにひきこもりをやめていきなりバリバリ働くことを考えるよりも、そういう具体的な目標があった方がひきこもり脱出のための現実的な行動が取りやすいとカウンセラーは考えて、この提案をしたのだった。

今回のカウンセリング

室長 前回おすすめした「ひきこもり親の会」には行ってみましたか?
お母さん(笑顔) はい。前回のカウンセリングの2、3日後、平日の夕方、まず私がひとりで行ってきました。
室長 いかがでしたか?
お母さん びっくりしました。ひきこもりの子どもがいる家はうちだけではないとは思ってはいましたが、あんなに大勢のひきこもりのご家族がいらっしゃるなんて予想外でした。
室長 何しろ全国で70万人から150万人のひきこもりの方がいると言われていますからね。
お母さん(困った) もっとびっくりしたのは、参加していらっしゃったみなさんが、ご自分たちのひきこもりのお子さんのことをあっけらかんとお話しされていたことです。そして、それを聞いていらっしゃる他の方々が、すごくいろいろな反応をされるんですよ。親身になって他の方のお話を聞いているだけではなく、深刻な問題のはずなのに時には爆笑したりして聞いているんです。私はずっと息子のことを他人には話しづらいと感じていましたし、正直恥ずかしいとも思っていました。でも、考えてみれば、この会に集まっている方々はみなさん私と同じひきこもりの親なんですから、恥ずかしがって話す必要はないんですよね。参加してなんだか気持ちが楽になりました。
室長 「親の会」には参加してみてよかったようですね。お父様は会にご参加されましたか?
お父さん 私は先週の日曜、初めて参加しました。「行けば気持ちが楽になるから」と、妻に無理やり引っ張っていかれたのですが…。
お母さん(困った) 私はこの2週間で4か所の「親の会」に参加したんですけど、どこもお父さんやご夫婦のご参加が多いんですよ。お父さんたちも、お子さんのことやご家庭のことを恥ずかしがらずにたくさん話しています。それなのに、うちの夫は自分の話す番が来てもパスしてしまって…。
室長 無理に話す必要はないんですよ。恥ずかしいと感じるなら話さなくてもいいんです。「親の会」のような自助グループは、まず参加して他の参加者の話を聞いているだけでも充分効果が出てきます。自分の話はしたくなったらすればいいんです。それよりも、継続して参加していくことが大切です。もうひとつの私からの提案、遺言状を書いて息子さんに渡すというのは実行していただけましたか?
お母さん はい。遺言状を書いた目的も添えて、息子の部屋のドアの前に置いておきました。ドアの前からはなくなっていたので息子は読んだとは思うのですが、まだ何も反応はありません。
室長 「親の会」への参加は何か月か続けていただかないと、息子さんまで効果が広がっていくのは実感できないでしょう。遺言状についても、読んですぐに息子さんが何かそれについて話題にしてくるとは思っていません。
お父さん ずいぶん長く待たないと、効果が出るかどうかもわからないんですね。もう少し早くなんとかできないんでしょうか。息子のひきこもりが長引けば、それだけ就職などにも不利にはたらいてしまいますし。
室長 残念ながら、ひきこもりの問題が2、3か月ですっかり解決してしまうことはまずありません。ただ、早くなんとかしようとして息子さんにプレッシャーをかけては逆効果です。 少なくとも「親の会」に参加を続けていただければ、お父様、お母様の気持ちが楽になってきますから、息子さんにプレッシャーをかけるような雰囲気は減ってきます。結果的に、あせって息子さんのお尻を叩くようなことをするよりも、ひきこもりからの脱却は早まるでしょう。

 また、「親の会」にはお子さんの回復がだいぶ進んできたというご家族も参加されているでしょうから、会に参加を続けていただければ、そういった方たちからお子さんへの対応も学んでいけると思いますよ。遺言状についても、息子さんが読んでくれていれば、息子さん自身で将来のことを具体的に考えるきっかけになってくるでしょう。

お父さん では、私も妻と一緒にできるだけ「親の会」に参加を続けるようにはします。しかし、あとはじっと息子が動くのを待っているほかはないのでしょうか?
室長 もちろん、それ以外に私の方でもよい変化をもたらしてくれそうな可能性のあることは、どんどんやっていくつもりです。

 私がカウンセリングの中で使っているFAPという心理療法は、ミラーニューロンという脳が共感を持ってつながるはたらきを利用したものです。今までのカウンセリングの中でも、おふたりの緊張感やストレスの影響を下げていくのにFAP療法を使ってきました。

お母さん(笑顔) たしかに、このFAP療法をかけていただいてから、よく眠れるようになりましたし、気持ちも体もずいぶん楽になってきました。
室長 このFAP療法を息子さんにもかけていこうと考えています。
お父さん 息子はやっと自分の部屋から出られるようになったばかりで、まだとてもこちらの相談室まで来られる様子じゃありませんよ。
室長 FAPは必ずしも対面でなくても使えます。ミラーニューロンを使った脳のつながりさえ利用できればいいのです。私とお父様、お母様の間には、既にミラーニューロンのつながりができています。また、親子ですからおふたりと息子さんの間にも、当然ミラーニューロンを通じた脳のつながりはできています。ですから、私はお父様、お母様の脳を中継点にして、息子さんの脳にミラーニューロンを通じたはたらきかけを、FAP療法を使って行えるのです。
お母さん(困った) そんなことができるんですか!? なんだか超能力みたいな話ですけど。
室長 超能力やオカルトのようには考えないでください。脳と脳の間がケーブルでつながっているわけでもないのに、なぜ脳同士が共感反応を起こすかはまだ科学的にはわかっていません。しかし、共感を示した脳同士は活動が活発になるなど、ミラーニューロンの研究実証は進んできています。

 息子さんは、就活に失敗しご両親に対して期待を裏切ってすまないことをしているという罪悪感を強く感じていると思います。以前にもお話ししましたが、息子さんは罪悪感で自分を責め、なんとかひきこもりから脱出しようとしています。しかし、罪悪感や自責感がストレスになって脳から身体にまで影響が出ているので、動こうとしても身体がついてきてくれません。すると、動けない自分をますます責めるようになり、脳と身体にかかるストレスがさらに増えてますます動けなくなるという悪循環にはまっているのです。そこで、私はFAP療法を使って息子さんの脳に働きかけて、ストレスや罪悪感を軽減していったり、身体の不調の一因となっているホルモンバランスの乱れをホルモン分泌の指令を出す脳から改善していくようにしていきます。

 この効果は、1、2か月ぐらいで出てくるかもしれません。息子さんの身体が少しずつ動くようになってきたら、散歩や近くのコンビニへの買い物などの無理のない範囲で、徐々に外に出ることを試みてもらうといいでしょう。

(つづく)

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☆心理相談室サウダージは、高円寺庚申通りで「家族問題(虐待、AC、DVなど)、お子様の問題(不登校、ひきこもり、発達障害、成績不振など)、アルコー ル・ギャンブルほかの依存症、摂食障害、職場・友人・恋愛などの人間関係の悩み、トラウマ、自傷行為、生きづらさなどの悩み」といった幅広いご相談を受けています。

☆心理相談室サウダージでは、毎週火曜日の夜、ひきこもり・不登校・対人緊張を感じるなどの当事者のグループ・カウンセリングを行っています。

詳しくは、相談室のウェブサイトをご覧ください。


※本記事は「HAPPY!高円寺」連載記事『心理相談室サウダージの人生らくらくカウンセリング』をバックナンバーを含め公開(毎月10日頃更新)したものです。

 


著者について

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