『人生らくらくカウンセリング』連載〈18〉「どうする!? うちの子のひきこもり」④

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人生らくらくカウンセリング

前回までのカウンセリング内容】

就活がうまくいかなかったことをきっかけにひきこもり状態になってしまった息子の相談で、母親がカウンセリング・ルームにやって来た。

カウンセラーは、いきなり息子を外にひっぱり出そうとしないようアドバイスをした。息子の状態を変えるには、まず家族が変化することが必要であり、家の中に外部からの空気や刺激を入れることも大切だと考えたカウンセラーは、相談室からの帰り道に高円寺の街のあちこちに寄り道をして、何か家へおみやげも買って帰ることを薦めてみた。

同じ家の中で会話を交わすどころか顔もほとんど合わせなかった息子と母親は、おみやげの話題から徐々に話ができるようになっていった。

次にカウンセラーは、仕事に追われていて家族の問題に目が向いていなかった父親にも問題解決のための協力をしてもらいたいと考え、母親のカウンセリングを助けてもらいたいというお願いをして、相談室に来てもらうようにしていった。

 

今回のカウンセリング

室長お母様の2週間に1回のカウンセリングに、お父様もお忙しい中、この1、2か月の間に何度か付き添ってくださり、カウンセラーとしても助かります。お父様がいてくださると、カウンセリングがスムーズに進みますね。
お父さんそうですか。お役に立っているようなら、私も妻に同行している甲斐があります。それに、息子にお説教しても効果がないとか、息子の問題を解決するにはまず家族が変わる必要があるとか、家族が自分の楽しみの時間を持つ方がいいとか、そういうお話を先生が妻になさっているのを横で聞いていると、私もいろいろ考えさせられます。それから、2週間に1度、休日に妻と高円寺に来て、その前後に夫婦で食事をしたりちょっと街を一緒に歩いて買い物するようになってみて初めて、ずいぶん長い間夫婦だけでゆっくり楽しく過ごすなんてしていなかったことに気づきました。
室長それはよかったです。さて、今日はおふたりに2つご提案があります。ひとつは、「ひきこもりの親の会」にご夫婦で参加をしてみたらどうかということです。
お母さん「ひきこもりの親の会」ですか? どんなところなんでしょうか?
室長あなた方と同じような子どものひきこもり問題を抱えた親が集まって、お互いに悩みを話したり聞いたりしていく場です。
お父さん専門家がアドバイスなどもしてくれるのでしょうか?
室長会によってまちまちですが、こういった同じ悩みを持つ人たちが集まって共に回復を目指す会は「自助グループ」と呼ばれていて、通常は当事者だけで行われます。
お父さん素人だけが集まっていたって何の解決策も出てこないんじゃないですか!? ただの傷のなめ合いをしてるだけでしょう。
室長今おっしゃられたことは、自助グループについてよく知らない人からしばしば聞かれる意見です。お父様もたった今自助グループの存在を知ったばかりですよね。実際に参加してみなければ、どういうところかという意見は言えないでしょう。自助グループは通常、「言いっぱなし、聞きっぱなし」という形で行われます。ある参加者が自分の悩みや問題を話す時は、他の参加者は口を差し挟まず最後まで聞く。自分が話す時は、他の参加者が話したことへの意見や質問はしない。これが分かち合いのルールです。あくまでも自分の問題だけを話します。議論の場ではないのです。
お父さんそれじゃあ、本当に傷のなめ合いをしてるだけじゃないですか。お互い意見を戦わせないと正しい解決法なんか見出せませんよ。
室長誰かが話したことについて、善悪や正否を決める場ではないのです。参加者は自分が話したことに対して、意見も質問も批判もされないことがわかっていますから、自分の悩みを安心して話すことができます。また、このルールの中では、自分の話したことで他の参加者を傷つける心配もしなくてよくなります。
お母さん(笑顔)大勢の人の前で自分の息子のひきこもりの話なんてと思っていましたけど、それなら私も話ができそうです。
室長自助グループのもうひとつの良い面は、参加者全員が当事者なので話をみんなに共感して聞いてもらえることです。共感をしてくれる人に悩みを聞いてもらえることは、それだけで大きな回復の力になります。参加者全員があなた方と同じひきこもりの親ばかりなのですから、これほど共感ができる聞き手はありません。それもひとりではなく大勢で共感して話を聞いてくれるのです。こんなに心強いことはありません。 私はカウンセラーとしてできるだけ共感を持ってご相談を聞くようにはしていますが、共感の大きな良い聞き手という意味では、同じ悩みを抱く当事者の方々には到底及びません。ただし、脳の共感反応を利用したFAP療法によって、当事者の方たちとは違った形で共感の力による心理治療をしてはいますが。
お母さんそういう会なら私はぜひ参加してみたいです。今まで友人知人や息子の大学の相談窓口などにも相談してみたのですが、的外れなアドバイスや上から目線のお説教ばかりされて、話をしっかり聞いてもらえた感じが持てませんでした。でも、親の会に行けば私は悩みを受け止めてもらえそうな気がします。(夫に向かって)ねえ、あなたも親の会に一緒に行ってくれない? あなたが気が進まないのであれば、会場で座っているだけで何も話さなくてもいいの。カウンセリングの予約がない休日に付き添いというだけでかまわないから。
室長それはいい考えですね。「言いっぱなし、聞きっぱなし」の自助グループでは、自分の話す番が回ってきた時に話したくなければパスしてもかまわないのです。それに、本名を名乗りたくなければ、ニックネームを自分で考えてそれを使ってもいいんですよ。それに、自助グループの参加費は会場費を参加者みんなで分担する程度の額ですから、お金もほとんどかかりませんよ。
お父さんそこまで言うなら、近いうちに一度試しに参加してみてもいいが…。
室長親の会にとにかく一度は参加してみてくださるんですね。それはよかった。ひきこもりの本人ではなく親が会に出ていて何かいいことがあるんだろうかとお考えかもしれませんが、親御さんが悩みを吐き出せる場所を見つけて、家の中でイライラしなくなったり家の中の緊張感が下がってくれば、息子さんも部屋から出てきやすくなりますよ。 さて、もうひとつご両親にやっていただきたいのは、それぞれに遺言状を書いていただくことです。
お母さん(困った)遺言状!! なぜそんなものを!? 私がいくら息子のことで深刻に悩んでいるからといって、今の息子を置いて自殺しようとは思ってませんよ!!
室長ははは。お間違いなく。「遺書」じゃないですよ。「遺言状」です。お父様かお母様がもし亡くなられたとしたら、どのぐらいの遺産を息子さんに残してあげられるかをはっきりさせておくために書いてもらうのです。
お父さんたしかに、自分が死んでから相続でトラブルが起きないように、若くて健康であっても、早いうちに遺言状を書いておくといいとよく言われますよね。でも、それが息子のひきこもりの解決とどう関係してくるのでしょう?
室長ひきこもりの方たちのことを世間は誤解していて、「若くて働けるくせに甘えている。さぼっている。親や社会に対してすまない気持ちはないのか!?」などと非難します。しかし当事者たちは、「ひきこもりになってしまってすまない。申し訳ない。」と、こちらの想像以上に痛切に感じているのです。人一倍まじめで、「がんばらなきゃいけない。早く外に出られるようになって、親や社会に迷惑をかけた分を取り返すぐらい立派なことをしなきゃいけない。」と考えているのです。しかし、このひきこもっていて申し訳ないという罪悪感と、素晴らしい成果を上げるようなことを何かしないと自分のひきこもりの罪は取り返しがつかないという思い込みが、かえってひきこもりを悪化させます。
お父さんひきこもりを続けていてはまずいと考えて脱出しようとがんばらないと、解決は得られないでしょう。それがどうしていけないんですか?
室長なぜひきこもり状態が続いてしまうかというと、ひとつには、ひきこもりのきっかけになったストレスが脳だけではなく体にも影響して、動こう、外に出ようといくら考えても体が動かなくなっているからです。いくら根性やファイトでひきこもり脱出を試みても、体がついてきてくれないのです。結局がんばってみてもひきこもりからは脱出できず、そんな自分を努力が足らないと責めてしまいます。ただでさえ、ひきこもりになってしまった自分の存在を親や世間に対して申し訳ないと感じているのに、ひきこもり脱出ができないままの自分をさらに罪深く感じてしまうのです。罪悪感や自責感が増せば、脳にかかるストレスもますます大きくなり、その増したストレスで体もさらに言うことを聞かなくなっていきます。努力と根性でむりやりひきこもり脱出を試みては失敗し、罪悪感と自責感のストレスで体がますます動かなくなるという悪循環にはまっていくのです。道徳の教科書のような考えや世間一般のものさしで、反省と努力があれば何事も解決すると思っていたら、ひきこもりは悪化するばかりです。ひきこもりから脱出するには、脳や体にかかるストレスを減らして、できる範囲から徐々に体を動かしていく方がいいのです。ひきこもっていることに罪悪感を持たせるようなことを、家族や周囲は言ったりしてはいけません。
お父さんそのお話は理解できました。しかし、それと遺言状を書くことはどう結びつくのでしょう?
室長ひきこもり脱出後の自分の目標に関して、かなりの割合の当事者が、すぐに社会的に認められるような大きな成果を上げないといけないと考えているようです。しかし、息子さんだけではなく、何10社も面接を受けても正社員になれない大卒の人が3割以上いるという時代です。まして、ひきこもりなどで履歴書にブランクができた人の就活事情は、なおさら厳しいでしょう。そういう状況なのに、ひきこもりの人たちは親や社会への申し訳なさを取り返そうと、いきなり一発逆転を狙うような大きな成果を目標にします。大企業の正社員になることに再挑戦するばかりか、経験も資金もないのにベンチャー起業を考えたり、芸術やスポーツなどで注目を集めるというようなきわめて狭き門を狙ったり、体もうまく動かず自分の世話だけで精いっぱいの状態なのに人助けに奔走するような仕事を目指したりします。遠い目標や夢としてならこういうことを考えていてもいいのですが、ひきこもりから脱出していきなりチャレンジするのは無理な話です。そして、チャレンジしては失敗することを繰り返していると、さらに自分に自信を失い、自分をますます責め、ひきこもりを長期化させる悪循環にはまっていきます。 また、いきなり大きな成果を上げないといけないという思い込みを抱いていたら、失敗してまた傷つくのが怖くなり、チャレンジの実行すらしない方向になっていきます。このような思い込みを捨てないと、ひきこもりは長引くばかりです。ひきこもりを脱した当初の目標は、もっとハードルを低くして現実的に持たなくてはいけません。そのために遺言状が必要なのです。
お父さんひきこもり脱出のための現実的な目標と遺言状、どう関係するんでしょうか?
室長いますぐご両親お2人とも亡くなってしまうことはまずないでしょうけれど、ご両親がいなくなった時に息子さんの住居はどうなるか、それから現金で遺産はどのぐらい残せるか、それがわかれば、ひきこもりから脱した後に、息子さんがどのぐらいお金を稼げれば自分ひとりの生活が成り立つかが見えてきます。ひきこもり脱出後の経済的な目標はそこに置けばいいのです。その収入が確保できる範囲で、自分にできるだけ向いた仕事や生活を選べばいいわけです。もちろん、この目標だっていきなり達成する必要はありません。実際にはあなた方はまだまだ亡くならないでしょうから、徐々に目標に近づいていけばいいのです。こういう考え方をしている方が、大きな成果をいきなり上げなくてはいけないという思い込みを抱いているより、ずっと気持ちが楽になります。自分に無理なくできそうな一番ハードルの低い目標から一歩一歩達成していけばいいので、失敗しては自責の念を増やしていくという悪循環からも抜け出せます。ストレスが減って、体もだんだん動くようになってくるという良い循環に変わってくるのです。
お母さんなるほど。そういうことだったんですね。じゃあ、さっそく今晩にでも2人でそれぞれの遺言状を書くことにします。それでいいよね、あなた?
お父さんたしかに、私の家はローンがまだ何年か残ってはいますが持ち家ですし、我々が2人とも死んでしまっても何年かは息子ひとりが生活していく程度の預貯金もあります。しかし、男が親の遺産だけに頼って生活するしかなく、女房子どもを食わせていくもできないというのは、なんだか情けない話ですね…。
お母さんあなた、そんなこと言ってたら、目標にする収入のハードルが上がって、あの子がまた追い詰められてしまうじゃない!
室長はははは。お母様はだいぶ話すことが変わってこられましたね。お母様のおっしゃるように、息子さんが自分を追い詰めないような目標を抱けた方が現実的な解決は近づきますよ。それに、もう男が女房子どもを食わせなければいけないなんて考えている時代でもないでしょう。何がなんでも結婚して子どもを持つ必要だってないですし。それから、バリバリ働いて稼いでくれる女性と結婚して、息子さんは家事と育児を分担するという手だってありですよ。親の遺産で生活しているというのだって、遺産があれば相続を断る人はいないんですから、そんなに厳しく考えなくてもいいでしょう。
お母さん(笑顔)そうですね。こうでなければいけないと考えているよりは、いろいろな可能性や選択肢を考えていた方が、少なくとも気は楽になります。
室長お母様がそういうふうに考えてくださると、きっと息子さんも将来のことを気楽に考えられるようになりますよ。さて、遺言状はできれば息子さんに手渡しをしてください。遺言状を今書いた理由を説明して、内容も息子さんとご両親で一緒に話し合えるのがベストです。しかし、息子さんが部屋から出てこないようなら、遺言状を今準備したのは息子さんに将来の経済的な生活のイメージを持ってほしいからということも書き添えて、ドアの前にでも置いてあげてください。
お母さん(笑顔)わかりました。
室長では、次回お会いした時にまた変化をお聞かせください。楽しみにしています。

(つづく)

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☆心理相談室サウダージは、高円寺庚申通りで「家族問題(虐待、AC、DVなど)、お子様の問題(不登校、ひきこもり、発達障害、成績不振など)、アルコー ル・ギャンブルほかの依存症、摂食障害、職場・友人・恋愛などの人間関係の悩み、トラウマ、自傷行為、生きづらさなどの悩み」といった幅広いご相談を受けています。

☆心理相談室サウダージでは、毎週火曜日の夜、ひきこもり・不登校・対人緊張を感じるなどの当事者のグループ・カウンセリングを行っています。

詳しくは、相談室のウェブサイトをご覧ください。


※本記事は「HAPPY!高円寺」連載記事『心理相談室サウダージの人生らくらくカウンセリング』をバックナンバーを含め公開(毎月10日頃更新)したものです。

 

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