『人生らくらくカウンセリング』連載〈21〉「あなたは既にDV被害を受けている!? DV・ストーカー被害から逃れるには①」


人生らくらくカウンセリング

相談者のアイコン2 今日は私の夫婦関係のことで相談に来ました。
室長 詳しくお話を聞かせていただけますか?
相談者のアイコン2 夫はやさしい時もあるのですが、何か気に入らないことが起きると時々キレてしまうんです。それが私とても怖いんです。私にも悪いところがあるとは思うのですが、もう少し夫にも感情的にならないようにしてほしくて…
室長 あなたが怖いと感じるのは、お連れ合いがどんな場面でどのようなキレ方をしてしまう場合ですか?
相談者のアイコン2 たとえば、家で2人で日常的な会話をしていて、私が何か夫の職場のこととか、休日に夫がひとりで出かけた時のことかを聞こうとすると、突然カッと頭に血が昇って大声をあげるような時があるんです。結婚当初はそんなことなかったんですけど、だんだん夫がひとりで過ごしている時のことを聞こうとすると、怒り出すようになってきました。
室長 お連れ合いが職場で何かうまくいっていないとか、プライベートでも何か聞かれたくないような秘密でもある様子なのでしょうか?
相談者のアイコン2 そういうわけではないようなんです。正社員で収入も低いわけではありませんし、残業などがキツくてイライラしているわけでもありません。職場の人間関係の愚痴もあまり言いません。プライベートでも、ひとりで気晴らしに1、2時間ドライブしてくるぐらいで、私の知らないところで不倫しているとか大きな借金を抱えているとかいうことはないと思うんです。
 夫には、「なぜお前は俺のことに細かく干渉してくるんだ!! イライラさせるな!!」などと怒鳴られます。それまで穏やかに会話をしていたのが急に様子が変わるので、それがとても怖いんです。でも、夫が気になるようなことを言ってしまったのは私ですし、ふだんはやさしい人を怒らせてしまっているんですから、やっぱり私にも悪いところがありますよね? 私の夫への接し方を改めれば、夫も以前のような穏やかな人に戻ってくれると思うんです。それで、何かアドバイスがいただけたらと…。
室長 あなたはご自分にも悪いところがある、責任があると感じていらっしゃるんでしょうか?
相談者のアイコン2 はい。夫がキレてしまうのも私のことばがきっかけですし、それに夫婦の間の問題は協力して解決していかなきゃいけないとも思います。
室長 しかし、あなたはご自分がお連れ合いにしゃべったことのどこがいけないのかもわからないまま、急に怒鳴りつけられているんですよね? それにずいぶん怖がらされているご様子ですから、その心理状態のまま、さらにキレている夫に何が気にさわったかとは聞きにくいでしょう。
 つまり、あなたはご自分のどこがよくなかったかも言ってもらえないまま、本当に自分に非があるかどうかもわからないのに、自分の悪いところを直していかなくちゃと思わされてしまっているんです。
 人間関係の中で、相手の言動に不満や怒りを覚えることは誰にでも、どんな良好な関係の中にでもあります。ただ、その不満や怒りは、できる限り穏やかに、またことばで相手に伝えなければいけません。相手にイラだったからといって急に怒鳴りちらして相手を怖がらせるというのは、まともなコミュニケーションではありません。そんなやり方をされている限りは、ご自分にも悪いところや責任があるなんて考える必要はありませんよ。
相談者のアイコン2 …そうなんでしょうか…
室長 それから、大事なことをうかがっておかなければいけません。お連れ合いは、あなたに対してキレた時は怒鳴るだけですか? あなたを殴ったりはしていませんか?
相談者のアイコン2 私は夫に手を上げられたことはありません。…でも、この頃、夫は怒鳴る時にバーンとテーブルを手で強く叩いたり、時には物を投げるようなことが多くなって、私はそれもとても怖いんです…。
室長 殴る蹴るはされていないかもしれませんが、あなたの受けているのは”DV”ですね。
相談者のアイコン2 DV!? 私はDVを受けているんですか!? まさか!?
室長 身体的な暴力被害ばかりがDVではありません。夫婦や恋愛パートナー間で、相手が望んでいないことを暴力的に無理やり行う行為はすべてDVです。
一番わかりやすいのは「身体的DV」ですが、他にも、怒鳴る、脅す、暴言をぶつける、行動を監視する、メールや携帯の着信履歴などを勝手に見るなどの「精神的DV」、夫婦や恋人だからといってしたくない時あるのにセックスを強要する、避妊に協力しない、セックスの際に相手がやりたくない行為を強要するなどの「性的DV」、生活に必要なお金を渡さない、勝手に家のお金を持ち出すなどの「経済的DV」もあるのです。方法の違いはあっても、強制的な方法でパートナーから支配をされてしまうことは何でもDV被害なのです。
 あなたは夫から理由のわからないことでひどく脅されて、恐怖で精神的に不安定にさせられてしまっているのです。あなたは被害者なのです。あなたが反省したり態度を改めようとする必要はないのです。
 でも、DV被害に遭っているとは気づいていなかったかもしれませんが、よく相談に来てくださいました。家族・パートナーの間だけに問題が隠されたままだと、解決はやって来ませんからね。今日相談にいらっしゃることができたというのが、まずあなたには問題を解決していく力が備わっているという証拠です。自分にも悪いところがあったなどとご自分を責めるのではなく、自分は被害者であるという自覚を持ち、権利を回復し問題を解決していく力を私は持っているという自信を感じてください。
相談者のアイコン2 私が夫からされていることは本当にDVなんですか? なんだかまだそうは思えないんですが…。
室長 DVと呼ぶかどうかはともかく、あなたは夫から理不尽な扱いを受けて恐怖を感じているのは確かですよね?
相談者のアイコン2 …そうですね。その通りですね。先生に指摘されて初めて気づきました。
室長 今のところは、ご自分が被害者で自分に非があったわけではないということがおわかりいただければ、それで十分です。
 さて、いくつか大切なことをうかがわせてください。
 まず、あなたの同居ご家族はお連れ合いだけですか?
相談者のアイコン2 いえ。1歳4か月の男の子がひとりいます。
室長 そうですか。では、お子さんのためにもますます問題解決にしっかり取り組んでいただけたらと思います。
 お連れ合いが怒鳴ったり、テーブルを激しく叩いたり、物を投げたりするような時は、お子さんはどうしていますか?
相談者のアイコン2 たいていは子どもはもう寝ています。でも、大声や大きな音にびっくりして泣き出すこともよくあります。
室長 お子さんが泣き出したりした時、お連れ合いのご様子はいかがですか?
相談者のアイコン2 「うるさい!」とか「黙らせろ!」とか「子どもが泣きやまないのはお前の責任だ!!」などと、さらに怒鳴られてしまいます。
室長 それはひどい!! あなたもお子さんもそんなことを言われたらますます気持ちが混乱して、お子さんはかえって泣き続けてしまいますよね。
相談者のアイコン2 なんとか子どもをあやして寝しつけるまでは夫も多少落ち着いてくれるのですが、子どもが寝た後、夫から子どものしつけがなってないと長い時間お説教をされたりもするんです…。本当はなぜ私がそんなお説教をされなきゃいけないのか理解できないのですが、下手に夫に反論したりすれば夫がますます不機嫌になるので、怖くてそのまま夫の言うことを聞いています。そのうちなんだか頭の中が真っ白になってきて、夫の言っていることも自分の考えもどんどんわけがわからなくなってくるんです…。
室長 詳しくお話をうかがったので断言できます。あなたが受けているのは深刻なDV被害です。そして、お子さんは児童虐待をされていますね。
相談者のアイコン2 でも、子どもが直接何かされているわけではないですよね? それにまだ1歳です。両親の間にトラブルが起こっていても、意味もわからないし、大人になってしまえば忘れてしまうでしょう?
室長 両親の不仲やDVのある家庭で育てられたことは、お子さんのこころに深刻なトラウマを残します。そういう家庭環境で育てられること自体が虐待なのです。
 それから、たしかにお子さんは、自分が1歳だった頃に母親が父親からDVを受けていたという記憶を、大人になってから思い出して語ることはできないでしょう。しかし、DV家庭で育てられたことは、お子さんの脳・無意識の中にしっかりトラウマ記憶として残ってしまいます。お子さんが大きくなってから、この小さな頃のトラウマが、うつ症状、リストカット、暴力行動、依存症、さまざまな身体症状などを引き起こす可能性も大です。こうなってしまうと、問題の原因が思い出せないような小さな頃にありますから、一般的なトラウマ治療の方法では回復は難しくなります。
相談者のアイコン2 そうなんですか!? 私…、あの子に何をしてあげたら…?
室長 それはこれから一緒に考えていきましょう。私の使っているFAP療法による治療なら、無意識の部分にあるトラウマを処理していくこともできます。必ず回復できます。大丈夫ですよ。
 さて、お連れ合いから物を投げつけられることもあるというお話でしたが、どんな物を投げつけられるのですか?
相談者のアイコン2 カッとなって手近にある物を投げつけてくるのですが、ティッシュの箱は顔にぶつけられたこともあります。でも、私に投げつけてくるのではなく床に叩きつける感じなのですが、お皿やグラスをガチャン!と割られる方が、ずっとビクッとします。それから、私に当たらないような方向に投げるのですが、手近の硬い物を壁に穴が開くほど強く投げつけることもあるので、それもすごく怖いです。
室長 ずいぶん恐ろしい目に遭わされていますね。お話を詳しくうかがっていくと、次から次にひどい話がどんどん出てくる。
 ところで、お連れ合いはお酒は飲みますか? あなたにひどい仕打ちをする時は、酔っ払っていたりはしませんか?
相談者のアイコン2 そんなにお酒は飲みません。会社の接待や飲み会で外で飲んでくることはありますけど、家ではせいぜい缶ビール1本です。
室長 では、アルコール問題がらみではなさそうですね。DVの問題解決とお子さんの生育環境の確保に絞って、カウンセリングを進めていきましょう。
 本当は今後はお連れ合いが怒鳴り始めたりした時に、今までとは対処方法を変えて、あなたとお子さんが一時的にでもお連れ合いのいる場から逃れるようにできればとは思います。
相談者のアイコン2 逃げろと言われても、狭いマンションの中で逃げ場なんかありません。それに、下手なことをすると夫の怒りがさらに大きくなりそうで怖いです。
室長 そうなんですよね。ご心配はもっともです。ただ、お連れ合いが怒鳴り始めたらなるべく早いタイミングで、「ごめんなさい。私、またあなたの気に障ることをしてしまったみたい。でも、あなたが怒り出すといつも子どもが泣き出すから、ちょっと子どもの様子を先に見に行かせてください。あなたのお話はその後でちゃんと聞くから。」と言ってみてください。もちろん、こう言ったからといってうまくその場が収まるかどうかはわかりませんし、第一こういうセリフを口にすること自体、とても勇気がいるとは思います。でも、今までと同じことを繰り返しているだけでは、事態は悪くなることはあっても良くなることはありません。何かの変化が起こることを期待して、試してみてください。
相談者のアイコン2 わかりました。
室長 さて、もうひとつ次回のカウンセリングまでにやっておいていただきたいことがあります。DV被害者の自助グループというものが、あちこちで開かれています。インターネットなどで情報を調べて、次回までに最低1回は参加をしてみてください。
相談者のアイコン2 自助グループに参加すると、どういう効果があるんでしょう?
室長 あなたと同じような問題で悩んでいる方たちが、大勢参加している場です。自分の話をその人たちに共感を持って聞いてもらえますから、気持ちがとても楽になってきます。また、他の参加者の話を聞くことで、自分の問題解決のヒントなどいろいろな気づきも得られると思います。
 まあ、参加する前にあまり詳しい話をしても意味がありません。自助グループは「論より証拠」。参加を続けているうちに良さや効果が実感されるようになるものです。まずは参加してみていただいて、感想を次回聞かせてください。

〈つづく〉

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※本記事は「HAPPY!高円寺」連載記事『心理相談室サウダージの人生らくらくカウンセリング』をバックナンバーを含め公開(毎月10日頃更新)したものです。


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