本記事は「HAPPY!高円寺」連載中(2012年7月号、vol.33より)の人気記事『心理相談室サウダージの人生らくらくカウンセリング』をバックナンバーを含め公開(毎月10日頃更新)したものです。
心理相談室サウダージは、高円寺庚申通りで「家族問題(虐待、AC、DVなど)、お子様の問題(不登校、ひきこもり、発達障害、成績不振など)、アルコー ル・ギャンブルほかの依存症、摂食障害、職場・友人・恋愛などの人間関係の悩み、トラウマ、自傷行為、生きづらさなどの悩み」といった幅広いご相談を受けています。
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人生らくらくカウンセリング
連載〈14〉「わかっちゃいるけどやめられない!! ~依存症から回復するには~」④
(前回までのあらすじ)夫がパチンコにハマってしまい、困った妻が来談。カウンセラーは妻に、ギャンブル依存症家族が語り合う自助グループ「ギャマノン」に参加するよう勧めた。妻がギャマノンに参加を続け、夫がパチンコで作った借金は夫自身に始末をさせるようにするなど、夫に自分の責任を取らせる態度を取るようになると、夫は自分の問題に直面せざるをえなくなってきた。そして、ついにある日、夫のギャンブル問題を心配したり関わったりする人たちが集まった場に、夫自身もやってきた。
(カウンセラーの前田)
「はじめまして。お連れ合いから、あなたのパチンコ問題のご相談を受けているカウンセラーの前田です。
まずあなたにうかがっておきますが、今日ここに来ていただけたのは、あなた自身、ご自分のパチンコの問題をなんとかしなければいけないと多少は感じていらっしゃるからですよね?」
(相談者の夫)
「もちろん、毎日パチンコばかりしていて、大きな借金まで作ってしまったことは問題だと感じています。ただ、私は楽しみといえばパチンコぐらいしかありませんから、なんとか借金などせずほどほどに遊び程度にパチンコができるようになれればと思って、その相談に来ました。」
「わかりました。 まず、今日あなたのことを心配してくださったり、あなたの問題の解決に手を貸してくださる方々が大勢来てくださっていますから、ご紹介します。
GAというギャンブル依存症当事者の自助グループメンバーのAさん、借金・多重債務の問題解決の法律その他の相談に乗ってくださるNPOの代表のBさん、パチンコをやめた時に不安や不眠、うつが出てくる可能性もあるので、依存症に詳しい精神科医のC先生もお呼びしました。それから、お連れ合いがずっと参加しているギャンブル依存症家族の自助グループ「ギャマノン」の仲間のDさん、そして、あなたの方がよくご存じでしょうけれど、職場の上司のEさんと同僚のFさんです。」
「私はもう誰からも見捨てられていると思っていました。なのに、こんなに大勢の方々が私のために集まってくださったんですね…。」
「さて、まずあなたの問題について大切なことをいくつかお知らせしておきます。
まず、あなたのパチンコの問題はギャンブル依存症という病気が起こしているということを、しっかり理解してください。あなたの意思が弱いからとか、あなたの人格が劣っているから問題が起きているのではないのです。パチンコがやめられないのは病気の症状なのです。風邪をひいて熱が出たときに、自分の人格がよくないから病気になったと自分を責める人はいませんよね。それと同じで、パチンコがやめられないことで自分を責める必要はありません。
ただ、この病気はほうっておいては治りませんし、そのままにしておくとご自分にもご家族や周囲にも大きな害をもたらすということはおわかりですよね。ご自分で病気を治す気持ちは持ち続けてください。
それから、先ほどあなたは、『ほどほどに遊び程度にパチンコができるようになりたい。』とおっしゃっていましたね。しかし、残念ながら、あなたにはパチンコをはじめギャンブルはすっぱりやめていただく以外に回復の方法はありません。」
「そんなこと、無理ですよ! それにほどほどの金額でたまに遊ぶ程度なら、かまわないじゃないですか!?」
「今まであなたがパチンコをしていた時も、最初から借金が必要なほどのめりこむつもりでやっていたわけではないはずです。1,000円分だけ玉を買って、それで当たりがでなければやめようなどと思いながら、負けるとアツくなってずるずるお金をつぎこんでいったことがほとんどではないでしょうか?」
「たしかにそういう時もありましたが…」
「ギャンブル依存症に限らず、依存症という病気の特徴は、いったんハマっているものにちょっとでも手を出してしまうと、ひどい状態になっても自分の意思で止められなくなることです。 たとえばアルコール依存症の人は、たくさん飲まなければいい、缶ビール1本だけにしようと思って飲み始めても、意識を失って倒れるまで飲み続けてしまうようなことがしょっちゅう起こります。依存症の人の脳の中では、ハマっているものが少しでも使われると、脳内の快楽のスイッチが入ってコントロールができなくなる回路ができあがってしまっていると考えるとわかりやすいと思います。
この回路をはたらかせないようにするには、ハマっているものを完全に遠ざけるしかありません。」
「そんな!! 一生パチンコをやめ続けるなんて不可能です!!」
(Aさん)
「ギャンブル依存症当事者のAといいます。ちょっとお話させてもらいます。私たちギャンブル依存症のGAメンバーの多くは、それなりの期間ギャンブルをやめ続けることができています。私たちがハマっているものをやめていく時に大切にしている考え方に、『今日一日』というものがあります。ギャンブルを一生やめ続けると考えると、誰だって到底不可能なことと感じます。私たちは、『明日はギャンブルをやってしまうかもしれないけれど、今日一日だけはギャンブルをするのをやめて、代わりにGAのミーティングに参加しよう。』と考えるようにしています。
私たちの多くは、その一日一日の積み重ねで、結果的に何年もギャンブルをやめ続けることができています。」
「あなたたちはけっこう長期間ギャンブルをやめているようですが、本当に昔はそんなにひどくギャンブルにハマっていたんですか? 私のような大きな借金をしてまでパチンコをしていたわけではないんでしょう?」
「私は5年前にGAにつながるまでに、パチンコで700万円も借金を作っていました。女房にも離婚されて子供を連れて逃げられてしまいました。でも、GAに参加を続けるようになってからは、あれほどやりたくてたまらなかったパチンコが、だんだんやりたくなくなっていったのです。今は借金も処理でき、新しい職も見つかり、子供にも時々会えるようになりました。GAにつながって本当によかったです。」
(C先生)「精神科医の立場からも申し上げます。依存症から回復する特効薬に近いものが、自助グループへの参加です。医者がこうすると一番治る確率が高いと認めている方法なのですから、まず試してみてください。」
「ありがとうございます。」
(相談者)
「自助グループはとてもいい場所よ。私はこの数か月家族のグループ、ギャマノンに参加を続けているけれど、この問題で困っているのが自分だけじゃないとわかって、とっても救われた。Eさんのような悩みを分かち合える仲間ができたの。私は、あなたにもぜひGAに参加してほしい。」
「自助グループへ参加する際のコツは、” 最初から徹底的にやること” です。あなたは毎日パチンコをやったりパチンコの誘惑にかられてきたのですから、パチンコをする代わりに毎日GAに行くようにしてみてください。」
「毎日なんて無理ですよ!!」
(上司Eさん)
「お前にはしばらく残業はさせないよ。GAというのが特効薬だというのなら、会社が終わったら毎晩そこに行くようにすればいい。」
(同僚Fさん)
「お前は今までパチンコのことで頭がいっぱいで、年中そわそわしたり、借金返済の催促らしい連絡への対応で仕事中いつも携帯ばかりいじっていたから、こっちに仕事のしわ寄せが多くて困っていたんだ。
それに比べたら、お前の残業分の仕事を回されるぐらいどうってことはないよ。GAというのに毎晩行ってパチンコがやめられれば、また昔みたいにお前はバリバリ働けるようになってくれるだろうから、その方が俺も助かるし、心配もしなくて済むよ。」
(NPO代表Bさん)
「あなたがパチンコをやめ続けていてくれれば、新たに借金が増えることがなくなりますから、私たちの方でも今まで作ってしまった借金の返済や処理の計画が立てやすくなります。」
「こんなにたくさんの人があなたの応援をしてくれていることに気づかれましたか。これも、あなたがご自分の問題を何とかしようと感じて、今日の相談の場に足を運んでくれたから、あなたにやる気があったからです。でも、その気持ちを継続していかないと、パチンコをやめ続けるのも難しくなります。そうなったら、お連れ合いはじめあなたを応援してくれている人も離れていってしまいますよ。」
「わかりました。とにかくしばらく毎日GAに通ってみます。」
「パチンコをやめる決意をしても、人間ですからしばらくは毎日パチンコをしたい気持ちに襲われるでしょう。そんな時はひとりでがんばろうとしないで、同じ経験を持つ仲間のいるGAに来て、正直にパチンコがやりたくてたまらない気持ちを話していってください。
それから、どうしても誘惑に負けてパチンコをしてしまう日もあるかもしれません。失敗することは誰でもあります。私もGAにつながってから最初の数か月は、時々ついパチンコ店に足が向いてしまって失敗を繰り返していました。でも、GAの仲間 が、失敗した時ほどすぐに失敗したことを正直に話した方が楽になると言ってくれていました。言われた通り、パチンコをついやってしまった後は、必ずGAに行ってそのことを仲間に打ち明けるようにしてみました。すると、そのうちにパチンコをしたいという欲求自体がいつの間にかなくなっていったのです。
自助グループの力を信じて、参加を続けてみてください。」
「ありがとうございます。では、今日からでもGAに参加させてください。」
◎この方は、それから数か月GAのミーティングに参加し続けた。時間のある休日などはついパチンコ店にふらふらと入ってしまい、何万円もパチンコにつぎ込んでしまう失敗も何度かしてしまった。だが、失敗した時ほど、GAでその失敗のことを仲間に話すことを繰り返してみた。そのうちに本当にAさんに言われた通り、ギャンブルへの欲求自体が薄れてきた。そして、GAへの日々の参加がパチンコよりもずっと充実した生きがいのように感じられるようになってきた。妻もギャマノンに淡々と参加を続けていて、2人が一緒に過ごす時間はあまりないが、以前よりも夫婦2人で過ごせる時間を大切に感じられるようになってきている。
(おわり)※次回からは、「ひきこもり」についてのQ&Aです。