本記事は「HAPPY!高円寺」連載中(2012年7月号、vol.33より)の人気記事『心理相談室サウダージの人生らくらくカウンセリング』をバックナンバーを含め公開(毎月10日頃更新)したものです。
心理相談室サウダージは、高円寺庚申通りで「家族問題(虐待、AC、DVなど)、お子様の問題(不登校、ひきこもり、発達障害、成績不振など)、アルコー ル・ギャンブルほかの依存症、摂食障害、職場・友人・恋愛などの人間関係の悩み、トラウマ、自傷行為、生きづらさなどの悩み」といった幅広いご相談を受けています。
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人生らくらくカウンセリング
連載〈13〉「わかっちゃいるけどやめられない!! ~依存症から回復するには~」③
(前回までのあらすじ)パチンコ依存症の夫に困っている妻がカウンセリングにやってきた。カウンセラーは、夫の借金返済や問題の後始末は夫本人にさせること、そして、妻はギャンブル依存症の家族の自助グループ「ギャマノン」に継続参加することをアドバイスした。
ギャマノンに参加を続けていた妻は精神的に安定し始め、グループの仲間からも問題解決に役立つ話をいろいろ聞くことができた。いっぽう夫の方は、妻が借金の肩代わりをしてくれなくなり、自分のギャンブル問題に直面させられイライラし始めていた。
「私の気持ちはだいぶ楽になってきましたけれど、夫のパチンコはまだ止まりません。ただ、パチンコするお金を借りるのにも苦労しているようで、最近とにかく機嫌がよくないです。」
「そろそろ次の段階に進みましょう。まず、あなたの気持ちを直接お連れ合いに伝えてみましょう。」
「パチンコや借金をやめてくれとは、何度も話していますよ。」
「パチンコなどの依存症になったら、周囲がお説教をしたり泣いてお願いをしても、ハマっているものを止めることはできません。本人だって、このまま何かにハマり続けていたらまずいことはわかっています。家族に涙ながらに訴えられたら反省もします。でも、またちょっとだけでもハマっていることを始めてしまったらスイッチが入って、脳が覚え込んでしまった行動がやめられなくなるのです。まさに“わかっちゃいるけど、やめられない”病気なのです。それに、説教するとかえって逆ギレを招いて、あなたに暴力を振るったり、ますますパチンコにのめりこむ可能性もあります。」
「じゃあ、どう気持ちを伝えればいいんですか?」
「アイ・メッセージというやり方を使います。アイというのは英語の“I”、つまり“私は”という主語をきちんとつけて、あなた自身の気持ちを伝えるのです。たとえば( ↓ )
『私は、あなたがパチンコをやめられないで困っているのを見ているのはとてもつらい。私は、あなたがパチンコをやめられないのは、あなたが悪いからではなくてギャンブル依存症という病気のせいだと思う。だから、私はあなたに専門の相談機関に行ってほしい。私も一緒に行くこともできる。でも、あなたが自分が病気だと認めずに専門の治療や相談を受ける気持ちにならないのなら、私はあなたと別れて出て行くつもりだ。』
――という感じです。」
「その話し方は、今まで私がしていた話し方とどう違うのでしょう?」
「あなたとお連れ合いの閒にはっきりした境界線ができることが重要です。パチンコがやめられなくて困っているのは、彼の問題。そんな彼と一緒に暮らしていると生活にも困るし、気持ちも苦しくなるというのは、あなたの問題――というふうに。依存症の家族の中では、どの問題が誰の解決するべき問題なのかが混乱してわからなくなりがちです。今回の説得に限らずご家族の問題を話す時にはいつも、その問題や気持ちは誰のものなのかはっきりさせることが大切です。そのためにこのアイ・メッセージはじめ、主語を明確にして話すようにするといいですよ。
この話し方をすると、まずあなた自身がご自分の気持ちをよりはっきりわかるようになります。また、彼に何かを命令したり彼をコントロールしようとする言い方ではなく、あなたの気持ちや態度を伝えたうえで、最終的には彼のことは彼自身に決めさせる言い方になります。彼の方もパチンコを続けることであなたを振り回しコントロールし続けていたわけですが、自分が病気であることを認めて専門治療に入らないとあなたに出ていかれるのだから、いよいよ自分の問題に対する態度を自分で決めるように迫られるわけです。
絶対にこのやり方でうまくいくとまでは言いませんが、お説教よりははるかに有効なことは確かです。
ただ、話の途中で彼が怒り出す可能性もあります。他人のいる場所で話せることではないでしょうけれど、すぐに外へ逃げ出せるような場所で話をした方がベターです。」
「わかりました。やってみます。夫がこちらに相談にうかがう気持ちになったら、どうすればいいですか?」
「お連れ合いには伝えない方がいいですが、パチンコ仲間ではない彼のお友達や元の職場の上司や同僚などに心配をしてくださっている方などがいらっしゃれば、お声をかけて一緒に集まれるようにしてください。また、あなたが親しくしているギャマノンの仲間にも、できれば同席してもらってください。私の方も何人か集まってもらいたい人に連絡を取っておきます。
いろいろな角度からお連れ合いやギャンブル依存に関わっている人に、それぞれの立場から話をしてもらう場を作って、彼に専門治療に入る気持ちになってもらえたらと考えています。
最終的にはお連れ合いの決めることですが、我々が願っているのは彼がギャンブル依存症の専門治療に入り、ギャンブル依存症の自助グループであるGA(ジーエー)に参加し続けるようになってもらえることです。」
「いろいろアドバイス、ありがとうございます。具体的にやるべきことがわかってきたので、気持ちがまた少し楽になりました。」
(つづく)※次回は7/10頃に更新予定です。